入社や退社のたびに、「あの書類、もらってたっけ…」「社会保険の手続き、期限いつだっけ…」とバタバタしていませんか。
中小企業の総務担当は、採用から備品管理まで何でも屋になりがちです。そのうえ入退社の手続きとなると、関係する機関は複数あるし、書類は大量だし、ミスれば従業員に迷惑がかかる。正直、一番プレッシャーのかかる業務のひとつではないでしょうか。
私のまわりでも、「入社手続きを一式忘れて、新入社員が初月の給与計算に間に合わなかった」という話を聞いたことがあります。担当者は平謝りで、信頼回復に数ヶ月かかったと言っていました。
この記事では、中小企業の総務担当が入退社手続きをもれなく・スムーズにこなすための、チェックリストと効率化の具体策をまとめています。ツール導入の話もしますが、お金をかけなくても今日から動ける方法から紹介するので、まずは読んでみてください。
入社手続きで漏れやすいポイント
入社手続きは、やることが多すぎて「なんとなく終わった」になりがちです。実際に総務担当の方と話すと、漏れる箇所はだいたい決まっているんですよね。
よく聞く失敗パターンはこの3つです。
- 社会保険・雇用保険の加入手続きが遅れて、初月の給与計算がおかしくなる
- 扶養控除等申告書をもらい忘れて、年末調整の時期に困る
- マイナンバーの収集を後回しにして、法定調書の提出前に慌てる
特に社会保険の資格取得届は、入社日から5日以内に年金事務所へ提出するルールがあります。週をまたいだり、書類の不備があったりするとあっという間に期限を超えてしまうのです。
「忙しかったから」では済まない話なので、チェックリストで管理するのが一番得策です。
入社手続きチェックリスト
入社手続きを「従業員から収集する書類」「会社が提出する手続き」「社内で完結する作業」の3カテゴリに分けると管理しやすくなります。
従業員から収集する書類
- 雇用契約書(署名・捺印)
- マイナンバーカードのコピー(または通知カード+本人確認書類)
- 扶養控除等申告書
- 給与振込先の銀行口座情報
- 源泉徴収票(前職がある場合)
- 健康保険被扶養者異動届(扶養家族がいる場合)
- 住民票記載事項証明書(住所確認が必要な場合)
- 免許証・資格証のコピー(業務に必要な場合)
会社が提出する行政手続き
- 健康保険・厚生年金保険 資格取得届(年金事務所 / 入社日から5日以内)
- 雇用保険 資格取得届(ハローワーク / 翌月10日まで)
- 労働者名簿・賃金台帳への記載
- 住民税特別徴収の切り替え(前職からの転職者の場合)
社内で完結する作業
- IDカード・入館証の発行
- PC・メールアカウントの設定
- 業務に必要なシステムへのアクセス権付与
- 就業規則・社内規程の交付と説明
- 緊急連絡先の収集
- 健康診断の受診案内
- 通勤経路・交通費の申請受付
これをExcelやGoogleスプレッドシートでまとめておくだけで、担当者が変わっても引き継ぎがスムーズになりますよ。
退社手続きで漏れやすいポイント
退社手続きは、入社よりも「感情が入りやすい」のが厄介です。円満退職でも、揉めた退職でも、手続きそのものはきちんとやらなければなりません。
退社手続きで特に漏れやすいのは、次の3点です。
- 雇用保険の離職票発行が遅れて、退職者が失業給付の申請で困る
- 社会保険の資格喪失届を忘れて、会社が余分な保険料を負担し続ける
- 貸与物(PC・スマホ・社員証)の回収が不完全で、情報漏洩リスクが残る
雇用保険の資格喪失届と離職票の発行は、退職日の翌日から10日以内にハローワークへ提出しなければなりません。退職者が失業給付を申請しようとしたときに書類がない…という状況は、会社の信頼問題に直結します。
また意外と見落とされるのが、システムのアクセス権削除です。退職後もメールアカウントや社内システムにアクセスできる状態になっていた、という事例は実際に起きています。情報セキュリティの観点から、退職日当日に削除するルールを作っておくのがおすすめです。
退社手続きチェックリスト
退職者から回収する書類・物品
- 健康保険被保険者証
- 社員証・IDカード・入館証
- PC・スマートフォン・タブレット
- 会社クレジットカード・交通系ICカード
- 鍵(オフィス・書庫・ロッカー等)
- 制服・ユニフォーム
- 業務関連書類・マニュアル類
会社が提出する行政手続き
- 健康保険・厚生年金保険 資格喪失届(年金事務所 / 退職日の翌日から5日以内)
- 雇用保険 資格喪失届・離職票(ハローワーク / 退職翌日から10日以内)
- 住民税の退職時の処理(一括徴収または普通徴収への切替)
退職者へ渡す書類
- 離職票(ハローワーク発行後に郵送)
- 源泉徴収票(退職した年の分、翌1月末までに交付)
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳(会社保管の場合)
社内で完結する作業
- メールアカウント・社内システムのアクセス権削除(退職日当日)
- 賃金台帳・労働者名簿への退職日記載
- 業務引き継ぎ確認
- 退職証明書の発行(本人から請求があった場合)
入退社手続きを効率化する3ステップ
手続きの内容がわかったところで、どうやって効率化するかを考えていきましょう。いきなりシステムを導入するより、段階を踏んで進めるのが現実的です。
Step1:手続きを「見える化」する
まず、今自社でやっている入退社手続きをすべて書き出します。「誰が・何を・いつまでに・どこへ提出するか」を一覧化するのです。
このときにありがちなのが、「担当者の頭の中にしかない手順」が出てくることです。私のまわりでも、「10年間その人しか知らなかった手続き」が退職で消えてしまい、新担当が1から調べ直した、という話を聞きました。
Excelでいいので、まずはフローを可視化するのが最初の一歩です。
Step2:テンプレートと期限を標準化する
チェックリストができたら、次は「誰がやっても同じ結果になる」仕組みを作ります。
具体的には、以下を整備するのがおすすめです。
- 入社・退社のチェックリスト(印刷して使えるもの)
- 各書類のひな形(Wordテンプレート)
- 各手続きの期限一覧表(カレンダーに落とし込む)
- 担当者ごとの役割分担表
特に期限管理は重要です。「入社日から5日以内」「退職翌日から10日以内」など、法律で定められた期限がいくつかあります。これをカレンダーアプリのリマインダーに登録しておくだけで、うっかり忘れが激減します。
Step3:デジタル化・自動化で作業時間を削る
Step1・2が整ったら、次はデジタルツールの活用です。クラウドの労務管理システムを使えば、書類のやり取りや行政手続きの一部をオンラインで完結できます。
「うちみたいな小規模会社にはオーバースペックでは?」と思う方もいるかもしれません。ただ、最近のクラウドツールは中小企業向けに低コストのプランも用意されているので、検討する価値はあります。
中小企業が使いやすいツール・システム
入退社手続きの効率化に使えるツールを、コスト帯別に紹介します。
低コストで始めるなら:Googleフォーム+スプレッドシート
まず費用をかけずに始めたい場合は、Googleフォームで入社書類を収集し、スプレッドシートで管理する方法があります。
例えば、入社予定者にGoogleフォームのURLを送り、マイナンバー以外の情報(氏名・住所・口座番号・扶養家族情報など)を入力してもらう。回答は自動でスプレッドシートに記録されるので、転記の手間が省けます。
ただしマイナンバーはセキュリティの関係でGoogleフォームでの収集は適切ではないため、紙での収集との併用が現実的です。
月1〜3万円で使えるクラウド労務ツール
社員数が増えてきたり、手続きの頻度が高くなってきたりしたら、クラウド労務ツールへの投資を検討するのがおすすめです。
中小企業でよく使われているのは以下のサービスです。
| ツール名 | 特徴 | 向いている規模 |
|---|---|---|
| SmartHR | 入退社手続きのオンライン化に強い。行政手続きの電子申請にも対応 | 50名〜 |
| オフィスステーション 労務 | 社会保険・雇用保険の電子申請が可能。中小企業の実績多数 | 10名〜 |
| freee人事労務 | 給与計算・勤怠管理と連携しやすい。freee会計を使っている会社に向く | 5名〜 |
| マネーフォワードクラウド労務 | マネーフォワード会計との連携がスムーズ。操作が直感的 | 5名〜 |
これらのツールは、入社時に従業員自身がスマートフォンから書類を提出できる機能があります。総務側で「紙を受け取って→Excelに転記して→行政へ持参」という流れが、大幅に短縮されるのです。
導入コストが気になる場合は、まず無料トライアルで試してみる価値があります。1回の手続きにかかる時間が半分以下になるなら、月数万円の投資は十分ペイするはずです。
電子契約ツールで雇用契約書も電子化する
雇用契約書の署名・捺印をリモートや郵送でやり取りしている場合、電子契約ツールを使うと大幅に効率化できます。
クラウドサイン・DocuSign・電子印鑑GMOサインなどが代表的です。入社予定者にURLを送るだけで、スマートフォンから電子署名できるため、書類の郵送や保管の手間がなくなります。
2022年の労働基準法改正で、雇用契約書の電子交付が明確に認められています。紙にこだわる理由がなければ、電子化するのが得策です。
よくある「手続き漏れ」を防ぐ仕組みづくり
どれほどチェックリストを整備しても、「忙しいときは確認を省く」という人間の習性には勝てません。仕組みとして漏れを防ぐには、次のような工夫が有効です。
入退社が決まったら自動でタスクが生成される仕組みを作る
Googleカレンダーに入社日や退職日を登録したら、自動でリマインダーが飛んでくる仕組みを作ると、うっかり忘れが防げます。
もう少し凝った仕組みを作るなら、GoogleスプレッドシートにGASを組んで、入社日を入力すると「5日後に年金事務所提出期限」などのリマインダーメールが届くようにする方法もあります。エンジニアがいなくても、最近はChatGPTにコードを生成してもらえば実装できるので、やってみる価値ありです。
ダブルチェックの相手を決めておく
チェックリストを作っても、1人でやると見落としが出やすいです。「入社手続き完了の報告を上長に送る」「スプレッドシートのチェック欄を2人で確認する」など、もう1人の目が入る仕組みを決めておくのがおすすめです。
手続きの属人化を避けるためのマニュアルを作る
「この会社に10年いて、入退社は自分しかわからない」という状況は危険です。担当者が病欠や突然の退職をした場合に、手続きが止まってしまいます。
マニュアルは完璧でなくていいです。「初めての担当者が一人でこなせる程度」を目標に、スクリーンショット付きで作ると使いやすいのです。
入退社手続きを効率化する前に確認したいこと
ツール導入や仕組み化を進める前に、現状の課題を整理しておくことが大切です。よくある失敗は「よくわからないままとりあえずSmartHRを契約した」というケースです。
まず自社の状況を確認しましょう。
- 年間の入退社件数はどのくらいか(月1件以下なら紙管理でも十分なことも)
- 現状の手続きで何が一番時間がかかっているか(書類収集?転記作業?申請?)
- ペーパーレス化に対する上層部の理解があるか(稟議が通るか)
- 従業員のITリテラシーはどの程度か(スマートフォン操作に慣れているか)
年間の入退社が5件以下の会社なら、Googleフォームとスプレッドシートの整備だけで十分なケースもあります。一方、月に複数件の入退社がある会社なら、クラウドツールへの投資が明確に効いてくるのです。
まとめ:入退社手続きは「仕組み化」が9割
入退社手続きの効率化で最も大切なのは、高価なシステムを入れることではありません。「誰がやっても同じ結果になる仕組み」を作ることです。
この記事で紹介したことをまとめると、次のようになります。
- 入社・退社それぞれのチェックリストを作り、漏れをなくす
- 手続きの期限をカレンダーに登録し、うっかり忘れを防ぐ
- 書類テンプレートを整備し、毎回ゼロから作らなくていい状態にする
- 会社の規模・件数に合わせてツールを選ぶ(無料〜低コストから始めてよい)
- 属人化を防ぐためのマニュアルを作る
このまま「毎回バタバタ」を続けると、いつか本当に漏れが起きます。1回の手続き漏れで、退職者や新入社員に迷惑をかけてしまう…。そうなる前に、まずはチェックリストを1枚作ることから始めてみてください。
総務の仕事を幅広くカバーしたい方は、総務の仕事一覧の記事もあわせてどうぞ。入退社以外の業務も含めて、年間の作業スケジュールを整理しています。
ツール導入を検討している方は、総務ツール導入ガイドも参考にしてみてください。目的別に12種類のツールを比較しています。